遅くなりましたが、改めて湘南のJ2優勝、おめでとうございます。
私は今年2位予想が湘南だったので、それを上回れてしまったことになります。
来年J1でどこまでやれるのか、今から楽しみですね。
…ということで、いきなり湘南の話を始めてしまいましたが、湘南ベルマーレ Advent Calendarという企画に参加させていただくことになり、本日はそのエントリーを書かせていただきます。
アドベントカレンダーとは本来クリスマスに向けて1日ずつ開けていくものなのですが、それが転じて12月に1つのテーマに対して複数人が毎日記事を投稿していくという企画があり、Jリーグでは札幌や湘南のサポなどが実施されています。
何気なく私も参加していいのかつぶやいたところ、主催のたけさんに承諾いただき、参加することになりました。
この企画に合わせて投稿時間もいつもの7時ではなく、日付が変わった直後となっていますが、ご了承ください。
「何気なく」と言っても、書きたい内容に関しては決まっていました。
"湘南スタイル"とも呼ばれるキジェ監督のサッカーは、以前からジェフ時代のオシム監督のサッカーに近いところがあると言われていました。
それを当時オシム監督のサッカーを見ていた私が、改めて考えてみようという内容です。
ただ、2つのサッカーを比較するというのは、簡単ではないと思います。
選手も時代も環境も違うわけで、ナンセンスと思われるかもしれません。
しかし、2つのチームを比べることによって、改めてJ2優勝を果たした湘南や当時Jリーグを席巻したジェフのサッカーとは何だったのかを考える良い機会になるのではないかと思い、このテーマにしてみました。
ちなみにオシム信者とは周囲に言われたもので、いつの間にか一部からはそういう立ち位置として見られていたようです(笑)
■アグレッシブなマンマーク守備によって選手を育てる
まず守備に関しては、現在の湘南も当時のジェフも非常にアグレッシブなスタイルが印象的です。
マンマーク気味に激しく人に付いていき、オシム監督のサッカーでは縦パスに対してトラップした瞬間を狙って奪うという展開が目立っていました。
キジェ監督がそこを狙っているのかどうかまではわかりませんが、基本的な守備の考えは似ているように思います。
特に似ているように感じるのは、ボールではなくしっかりと人を見て、一発で奪いに行くだけでなく粘り強くマークしていくところではないでしょうか。
1人1人がマークをはっきりと持つことによって、守備における個々の責任感が増し、集中力を保ってプレーする必要性が出てくる。
それによって、選手が成長していくという環境が出来ているのも、両チームの特徴だと思います。
また、攻守において激しく戦うサッカーということで、若く勢いのある選手たちを積極的に起用する傾向も感じられます。
マンマークだと必然的に運動量が求められるし、フィジカル面も必要となるため動ける選手が重視される。
攻守にアグレッシブなサッカーだからこそ若い選手たちにフィットしやすく、そこから選手が育っていくということなのかもしれません。
もちろんマンマークと言っても、DFラインにおいてはリスクマネジメントも考えなければいけない。
当時のジェフではストヤノフが、湘南ではバイアが余ってカバーリングをすることによって、他の選手たちが激しく潰しに行く状況を作り上げる。
状況に応じたマークの受け渡しなどもありますが、基本的にはマンマークでDFラインの最後尾にお目付け役を置く形も一緒ですね。
人への対応が主体なので、システムがあまり意味を持たず、柔軟に変化が出来ることも特徴です。
今季の湘南も、3バックと4バックを使い分けて戦っていました。
ジェフはより明確に、相手の最後尾の選手以外にマークを付けていき、最終ラインに1人が余る形で戦っていました。
よって、相手のDFラインから1人引いた数がFWの人数で、相手FWの人数に1人を足した枚数がDFラインの数となります。
例えば相手が4-4-2の時はジェフは3-4-3、相手が3-5-2の時はジェフも3-5-2。
相手が1トップの時は2バックで戦うなど、完全に相手に合わせたシステムを実施していました。
ただ、マンマークだからこそ、1対1で勝てないとそこから苦しくなるところがあります。
スタミナが落ちてアプローチが遅れると、少しずつ押し込まれて苦戦する部分がある。
このあたりの守備の課題も、似ているところがあるのではないでしょうか。
■人もボールも素早く動かすサッカー
攻撃に関しては、まず実例を取り上げたいと思います。
今季J2第41節湘南対岐阜戦の22分、中盤の秋野から中央で縦パスを通すと、山田が2タッチで素早く左サイドへ展開。
神谷が杉岡に繋いで再び受け直すと、そこからは神谷、端戸、秋野、端戸とすべて1タッチでシュートまで持ち込みます。
複雑に動き回っているので1枚で図にするとわかりにくいかもしれませんが、強引にまとめるとこんな感じに。
秋野からの縦パスを中央で受けた山田は、サイドに展開すると膨らんで大きく外を走り込んでいきます。
これによって相手守備陣をサイドに引き付け、中央にスペースを作り出します。
さらに中央では攻撃のスタートとなった、秋野も縦に走り込みます。
これによって相手の中盤が釣られて神谷の前が空き、神谷にパスが出たことで今度は秋野が空きました。
そして、神谷と秋野と端戸のトライアングルでテンポよく繋ぎ、相手を崩したことになります。
秋野が縦パスを出したところから、ほんの10数秒で多くの選手が絡みボールを動かして、シュートまで持ち込んだことになります。
複数人が絡んだ、素早いパスワークからの崩し。
縦への飛び出しだけでなく流動的な動きによって、相手の守備陣が混乱して対応が1つ1つ遅れていきました。
この攻撃もオシム監督が狙っていたサッカーに、近い展開だったと思います。
10年以上も前の試合になりますが、2005年第4節のジェフ対磐田戦でも似たような攻撃がありました。
この場面も1枚の図にすると複雑になってしまうので初めは省略していますが、まず右CB水本からの縦パスを水野が1タッチで中央の勇人に落としたところから始まります。
これによって勇人の前が空き、勇人からの縦パスを巻がハースに落とし、ハース、羽生、ハースと素早く繋いでいるうちに巻が前へ。
そして、巻がハースから1タッチでのパスを受けて、中央へラストパスを出し、最後は羽生がゴールを決めた展開でした。
この場面でも縦パスを出した勇人が斜め左に走り込むことで、相手守備陣の中央を分散する働きをしています。
さらに巻はポストプレーをした後に外に膨らんでから中に入っていく、いわゆるウェーブの動きで相手のマークを外していますが、この動きもオシム監督が好んでやっていて、先ほどあげた湘南の攻撃では山田が近い動きをしていますね。
流動的な動きでスペースを作りつつ、素早いパスワークで攻撃を構築していく展開で、この場面では珍しくオシム監督も喜んでいたそうです。
なお、この試合は序盤からジェフ優勢で進み、3-1でジェフが勝利しています。
「走るサッカー」とよく言われた当時のジェフですが、ただ前に走り込む、ただ速く攻める…というだけでなく、後方の選手が前方の選手を追い越したり、流動的に動き回ったりすることで、相手のマークをはがし、時には囮となって、相手の守備バランスを崩していきました。
さらに1人が走り込むだけでなく、2人、3人と次々に飛び出していくことで、複数人が絡んで攻撃に厚みを作る。
「走る」だけでなく「賢く走る」ことが必要であり、それによって「相手の守備を混乱させる」ことが重要であるとオシム監督は良く話していました。
オシム監督はジェフでも良く海外トップ選手の話をしていましたし、そういった選手やチームと対戦した時に個人の能力だけでは限界があると考え、複数人が攻撃に絡んで組織的に戦うサッカーが必要であるという発想だったように思います。
Jリーグで指揮を執りながらも常にさらに上を目指していた印象があり、こういった上昇志向がチームを高めていったところがあったのではないでしょうか。
逆に個人技での突破など、エゴイスティックなプレーを嫌うところがありました。
組織的に戦っているからこそ誰が出ても変わらないチームになっているという点も、現在の湘南と当時のジェフに共通して言えるところではないかと思います。
また、選手の動きだけでなく1タッチで素早くパスを繋ぐ展開が多いのも、両チームから似た印象を受ける理由ではないかと思います。
1タッチで素早く繋ぐためには、サポートにも早く行かなければいけない。
パスを繋ぐための迅速な判断スピードと判断力が必要で、素早くパスワークに絡む動きも要求されることになります。
最近は「人もボールも動くサッカー」というと、どちらかと言えばパスサッカーとして捉えられることが多いのかなと思います。
しかし、オシム監督がやりたかったのは、人もボールも止めずに素早く動かすことによって、相手を混乱させてシュートまで持ち込む展開だったと思います。
例としてあげた2つの攻撃はオシム監督も目指した展開に近いものではないかと思いますし、「人もボールも動くサッカー」における理想の1つとも言えるのかもしれません。
■トータルフットボールとディテールへのこだわり
これを書くにあたって両チームの試合をいくつか見直したのですが、改めて見直してもやはり印象の近いサッカーをしているように思います。
運動量の豊富さ、攻守におけるアグレッシブなプレー、素早く流動的で組織的な攻撃…。
ただ、もちろん完全に一緒ということはなく、違いもあると思います。
今年の湘南はシーズン序盤に勝点を伸ばせなかったためか、夏前から引いて守るケースも増えていったように感じます。
マンマークは変わらないものの、ある程度構えて守り相手が侵入してきたら激しく潰しにいく。
これによって結果的に相手を引き付けて、カウンターを狙う戦い方も見せるようになりました。
これは前からアグレッシブにいくサッカーとは、少し違った変化とも言えるのかもしれません。
ただ、オシム監督もジェフでの最終年となった2006年には、かなりパスを丁寧に繋ぐサッカーに変わっていった印象があります。
その分、前へのアグレッシブさは感じなくなり、サポの中でも賛否が分かれていました。
しかし、なぜこういった変化が生まれたのかを考えると原因は同じところにあり、相手の研究が厳しくなり引いて守られることが増えたからではないでしょうか。
基本的には自らの動きでスペースを作り、そこへ侵入していくサッカーということになるでしょうが、相手が引いて守ってくるとスペースメイクも難しくなる。
そこで湘南のように相手を引き付けてカウンターを狙うか、ジェフのようにパスサッカーを追及していくのか…で別れたところがあるのかもしれません。
互いに変化してはいるものの、それでも印象として似通って感じるのは、源流が近いところにあるからではないかと思います。
では、その源流とは何かと考えると、一言で表すのであればトータルフットボールということになるのではないかと思います。
全員で走って全員で体を張り、攻守において誰1人サボらないサッカーが、両チームの根源と言えるのではないでしょうか。
ただし、オシム監督は意外とリアリストな面もあるというか負けず嫌いだったゆえに、理想だけでなく勝つためのサッカーをしていた印象もあります。
そのためGKを含めて全員でパスを目指すサッカーを志向しつつも、結城や巻などゴール前では上手さより強さを選んだり、走るサッカーを提唱しながらもポペスク、クルプニなど技術のある選手も重視していたところがあったと思います。
オシム監督の弟子であるペトロヴィッチ監督などはより自分の理想を求めてテクニカルでスピードのある選手を集めていた印象もありましたが、理想を求めつつ最終的な勝負におけるバランス感覚の鋭さをもっているところが、オシム監督のミソだったのかもしれません。
キジェ監督が勝負師としてどのような手腕を見せるのかは、今後の見どころの1つと言えるのかもしれませんね。
最後に今年の湘南で一番感銘を受けたのが、先ほど図で紹介した攻撃のスタートでもある中央での縦パスです。
一瞬でも前の選手が空いていれば、素早い判断で鋭い縦パスをスパッと通す。
これをどの状況でも狙っていた印象で、それを実現するためにはパスの出し手が常に縦パスを狙っていなければいけないし、受け手も素早く反応できるように準備していなければいけない。
それを成立させるためには、普段の練習からしっかりと意識付けをし、細かな指導をしていかなければできないでしょう。
ジェフ時代のオシム監督も楔のパスの意識が非常に高く、ボールを奪ったらまず縦のパスコースを探して、巻かハースがポストプレーに入る体勢をとり、そこへ素早く他の選手がサポートに行くという動きをしていました。
この縦パスが攻撃のスイッチであり、そこから4人目、5人目といった選手が攻撃に絡んでいく展開が、ジェフの武器だったと思います。
これを実現するために、練習から狭いエリアで少ないタッチで行う、鳥籠やミニゲームなどを重視していたのだと思います。
手法は少しずつ違うのかもしれませんが、お互いに普段からしっかりと目指すべきサッカーの意識付けをし、じっくりとチームを作り上げているのではないかと思います。
両チームに感じるのはディテールを大事にすることであり、細かな部分にこだわったチーム作りこそが、リーグを席巻した大きな要因と言えるのではないでしょうか。
最近ではオシム監督に対する記憶が薄れてしまったせいか、なんでも簡単にオシム監督に紐付けるケースが増えています。
しかし、肝心なのは具体的に何をしていたのかや、その物事に対する本質の部分ではないでしょうか。
表面的に似ている似ていないを言うのであれば、言い方次第で何とでも言えてしまうところがあると思います。
また、逆にオシム監督の話を、毛嫌いする人も増えているように思います。
確かに偉大過ぎる人物でもあり、成功したからこそ比較したくないという思いもあるでしょう。
しかし、過去から学ぶべきところはしっかりと学ばなければ次につながらず、同じことを繰り返してしまうこともあるはずです。
そういった話にくいテーマでもありましたが、今回の機会を頂けたことで1つ書きたかったことを書けてよかったと思います。
ジェフでのオシムサッカーに関してはシーズン途中に終わってしまったこともあって、つい「まだ先に続く何かがあったのではないか」と考えてしまうところがあります。
それだけにオシムさんの弟子たちやオシムさんに通ずるサッカーをしている方たちが、どういった未来を描いていくのかは今でもとても気になるテーマとなっています。
そのため一方的な想いではあるのですが、キジェ監督と湘南がそのサッカーでJ1にチャレンジし、成功を納めることを遠くから応援したいと思います。
ということで、かなり自由に書いてしまいましたが、今回の機会を頂きありがとうございました。
湘南ベルマーレ Advent Calendarはまだまだ続きますので、今後の記事にもご期待ください!