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オシム監督の「相手を混乱させる」動きのポイントは

 図を使った紹介に関してもリハビリしておきたいので、もう少しモンテネグロ代表戦を振り返っていきたいと思います。
 オシム監督と言えば走るサッカー、攻撃的なサッカーという印象が強いため、どんどん選手たちが前へと走り込んでいく印象があるかもしれません。
 そのため、ジェフでそういった動きをすると、まるでオシム監督のサッカーのようだ…という話が出てくることがあります。

 例えばミラー監督の縦に走り込むカウンターや、エスナイデル監督のように多くの選手が攻撃に出ていくサッカーがそれにあたります。
 しかし、オシム監督の攻撃は流動的な動きがポイントで、単純に前に出ていくだけの攻撃というのはむしろ少なかったと思います。
 3人、4人と多くの選手がボールに絡む攻撃が特徴であって、それを実現するには縦に強引に仕掛けるのではなく、複雑な動きをしていかなければなりません。


 モンテネグロ戦を見て改めて思ったのは、縦に走り込む選手だけでなく、前方から足元にボールを受けに来る選手が必ずと言っていいほどいるということ。
 ジェフ時代にもよく見られた光景ですが、これによって相手を引き付けておいて周囲にスペースを作る。
 あるいは、相手がついて来なければ、反転して前を向いてチャンスメイクするという形が狙いだったと思います。

 オシム監督の攻撃はあえて密集状態を作って、素早くパスを繋ぎそこを打開する。
 あるいは打開できなければ、相手を集中させておいて大きく展開するという攻撃が特徴の1つ。
 そのため、単純に裏を狙うのでなく、下がって足元で受ける動きこそがキーポイントとすら言えるのではないでしょうか。


 例えば40分のシーン。

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 坪井からのパスをスッと下がった山岸が受けると、ワンタッチで外の阿部に出します。
 その阿部もワンタッチで繋ぐと、さらに下がってきた高原がフリーで受けて前に出します。
 そして、中盤から上がってきた遠藤が、矢野を追い越す動きをして前線に飛び出し、相手DFと1対1になりますが、遠藤のシュートは相手にブロックされています。


 このシーンには見どころがいくつかあって、まず山岸、高原が下がって左サイドに選手に相手を引き付けます。
 そうなると日本側も狭いエリアでのプレーが求められますが、そこをうまくかいくぐったのがジェフの山岸と阿部によるワンタッチパス。
 素早くボールを動かすことで、相手の守備をかわしながらフリーな高原を作り出したことになります。

 そして、高原のパスから遠藤が走り込むわけですが、前方では黒い点線で示したように、矢野が足元で受ける姿勢を見せているのがポイント。
 これによって相手DFが引き付けられ、その裏を取るように遠藤がスッと前に出ていきます。
 ポストプレーヤーを軸として、その背後を奪ったことになりますね。


 要するに、山岸、高原、矢野と前方からボール方向に下がる動きをしたことによって、相手を引き付けて裏をとれた。
 ジェフ時代からオシム監督が得意としていた2列目の選手が前方の選手を追い越す動きも、前方の選手の受ける動きによって成立していたと言えるでしょう。
 これによって相手が密集している中で打開できたことになるわけで、ただ単純に前へ、裏へという動きだけではこうはならないはずです。

 さらに、キックオフ直後にもこんなシーンが。

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 駒野のスローインを受けた鈴木が縦に展開。
 これを受けた高原が遠藤に落としますが、遠藤は前を止められてしまいます。

 このシーンでは、高原が斜め前方に出て受けることによって、ゴール前にスペースを作っています。
 この斜め前に出る動きも、オシム監督の好むパターンでした。
 そして、駒野がそのスペースに走り込んでいっています。


 本来なら遠藤が高原とクロスする形で、前に出ていってほしかった場面ではないかと思うのですが、そこはオシム監督も試合後に話していたように、まだ選手たちがオシム監督の意図を完全に理解していなかったのでしょうか。
 ただ、駒野がそこを感じとって、スペースに走り込んでいます。
 サイドの選手であっても斜めにゴール前に飛び込むのも、オシムサッカーの特徴だったと思います。

 ここでは高原と駒野が斜めの動き出しており、その分相手DFは対応に迷うところがあったと思います。
 単純に縦へと走り込むだけでは相手も予測しやすく、マークの受け渡しなどもしやすいと思いますが、流動的に動くことで相手を混乱させようという意図が感じ取れるシーンではないでしょうか。
 また、ここでも遠藤が鈴木からのボールを足元で受けられる位置にいて、その裏で高原が動き出したことによって、マークが分散されたようにも思います。


 オシム監督はよく「自分たちから動いて相手を崩す」、「相手を混乱させる」という話をしていましたが、相手を引き付けてスペースを作ったり、その裏を取ったりという動きもその中の1つなのでしょう。
 5レーンやポジショナルサッカー時代ならオシム監督のサッカーも変わったのではないかという意見を目にしたこともありますが、そもそも自らの動きで相手の守備バランスをずらすことがオシム監督の大きな狙いだったと思うので、根本的な発想が異なると思います。
 オシム監督の哲学というのは意外と基礎的な部分が多くを占めるものだとも思いますし、最新のトレンドを一部取り入れたとしてもオシム監督自身は変わらないのではないでしょうか。

 また、J SPORTSでもオシム監督時代の日本代表戦をやっていていくつか見ていて思ったのですが、パスを回しつつも攻撃の展開が速いということ。
 札幌で行われたサウジアラビア戦を解説していた巻も、「後方でゆっくりボールを持つことを嫌う」、「攻撃の展開が速い」という話をしていました。
 一方でGKからボールを回すことを好む監督でもあったわけですが、ボールを繋ぎつつも素早く攻めることが目標であると考えていたのかもしれません。


 ボールを繋ぐこととゆっくり攻めることは同義に扱われることが多いですが、オシム監督は"速いパスサッカー"を目指していたのかなと思います。
 もちろんそこは難しいところでもあるはずですが、日々の訓練からタッチ数の少ないパス回しや素早い判断を求める練習をやっていましたし、それによって成し遂げようとしていたのではないでしょうか。
 だからこそ、パスが各駅停車であるとよく怒っていたのでしょうね。

 それが日々顔を合わせるクラブチームではなく、代表チームで実現できたのかどうかはわからないところではあります。
 しかし、だからこそ、オシム監督はJリーグを大事にしていたし、国内サッカー全体の意識を変えようとしていたのかもしれません。
 そういったオシム監督の思いが、少しずつでも日本のサッカーに残って良い方向に進めばいいなぁと個人的には思います。