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オフサイドのルール変更と戦術の変化

 スポーツというものはルールの変更によって大きく戦術や戦法が変わっていくもので、それによってチームや選手に求められるものも変化していくものだと思います。
 モータースポーツなどはその最もたるものだと思うし、野球でもWBCなど世界大会が行われるたびにジャッジやボールの違いが大きな話題になります。
 サッカーにおいてはオフサイドのルール変化がサッカーを変えたという人もいるほど、オフサイドルールというものは重要なものなのだと思います。


 Wikipediaによると、サッカーは1863年に初めてルールの統一が行われたそうです。
 その3年後の1866年に、3人制オフサイドが制定されます。
 そして、1925年に現在のオフサイドルールのベースとなる、2人制オフサイドが取り入れられることになりました。



 その後チームは洗礼されていき、70年代にはオシム監督も大きな影響を受けたオランダ代表のトータルフットボールが。
 80年後半からは、サッキ監督によるミランゾーンプレスが確立されていきます。
 これによりコンパクトなプレッシングサッカーがメジャーなものとなっていき、最終ラインも高くなっていきます。


 Wikipediaには大まかなルール変更しか書かれていませんが、実際には細かなルール変更がされています。
 特に大きかったのは、2005年ルール変更ではないでしょうか。
 この時のルール改正によって、オフサイドポジションにいた選手が実際にボールに触るなど具体的に関与して初めて、オフサイドを取られることになりました。



 こういった変化によって、守備側がオフサイドを狙って取るのは難しい状況になっていきます。
 例えば今年ジェフ戦の解説をしていた戸田自身が、「ジェフに似ている」と話していたトルシエ監督率いる日本代表。
 2002年まで活動したこのチームも、積極的にラインを上げてオフサイドトラップを仕掛けていきました。


 特に当時話題になったのは、相手がバックパスをした瞬間にグッとDFラインを上げる動き。

 図のように、相手がバックパスを出したとする。

 バックパスが出た瞬間に日本はDFラインを上げて相手FWをオフサイドラインに置き去りにし、中盤から前を圧縮しプレスをかけていく。
 そうすることでバックパスを受けた選手は、近くにパスの出し先がなくなりDFライン裏に蹴らざるを得なくなる。


 しかし、DFライン裏にはオフサイドエリアに味方選手がいる。
 当時はオフサイド選手が近くのボールの方向に走れば、その選手がボールに触らなくてもオフサイドだった。
 だから、オフサイドトラップという戦術が成立していたのだと思います。



 けれども、現在のルールはオフサイドに関して厳しくなり、オフサイドエリアに選手がいても、ボールに強く関わるまではオフサイドを取れない。

 そのため、例えば図のようにオフサイドエリアの選手はボールに関与せず、2列目の選手が飛び出して拾えばチャンスを作ることが出来る。


 オフサイドエリアの選手がボールに触るかどうかは直前までわからないため、DFとしては図のようなパスが出ると裏に走らなければいけなくなった。
 しかも、DFからすれば背後に走ることになるわけだから、姿勢的に不利な状況。
 スピードはもちろん、何本も蹴られれば体力的にも厳しくなっていきます。


 結局トルシエ監督の"フラット3"も現実的には厳しいのではないか?と言われ続け、最後はリベロの宮本が余って対処することになりました。
 その後もオフサイドルールは変更になっていて、守備陣のクリアミスがオフサイドエリアの相手選手に渡った時などはオフサイドにならないことが厳密化されるなど、守備側にとって厳しいルールに進んでいます。
 実際、英語版Wikipediaオフサイドのページにあるオフサイドトラップに関しても、このように書かれています。

Now that changes to interpretation of "interfering with play" mean a player is not offside unless he interferes with play, players not interfering cannot be "caught offside", making the tactic more risky.

 「現在では"プレーを妨害する"の解釈が変わってプレーに干渉しない限りは選手がオフサイドではないことを意味し、プレーに干渉していない選手はオフサイドを取れないため、この戦術(オフサイドトラップ)は非常にリスクの高いものとなっている」とのことです。



 こういったルール変更もあって、ハイラインを敷くチームは少なくなり、オフサイドトラップも珍しいものになっていきました。
 そして、近年ではリトリート守備が主流となっていき、モウリーニョ監督を中心とした低く守りながらプレスをかけるサッカーが生まれていきます。
 その間を付くバルサのパスサッカーやゲーゲンプレスなども流行ってはいますが、守備の基礎においては大きな次の波は来ていないように思います。


 では、そのルール変更による戦術の変化に逆行しているともいえるジェフは、その変化に対してどういった打開策を考えているのか。
 現状では昔とは違って、はっきりとわかるオフサイドを取れることは少なくなった。
 そうなると、オフサイドを取れるケースは、紙一重であることが多いということになります。



 例えば中盤を圧縮して相手がパスの出し先がなくなり、苦し紛れに裏に出してオフサイドを取れたというケースなら大成功でしょう。
 あるいは中盤を圧縮した分ハイプレスでボールを奪う、またはプレスをかけ続け良い形で攻撃させないというのが現在のジェフの理想だと思います。
 ただ、相手の出し手がフリーな状況でパスを出しジェフのDFと競争になったとしたら、例え運良くオフサイドを取れたとしても守備は黄色信号であるといえると思います。


 紙一重な状況が続くのであれば、オフサイドを取れるかどうかはギャンブルにも近いものとも言えるかもしれない。
 だから、これまで解説してきた戸田氏、川勝氏、鈴木氏などは、口を揃えて裏を「フリーで走らせていいのか」、「カバーがなくていいのか」とコメントをしているのでしょう。
 現状のルールではトルシエ監督時代のように裏に蹴らせて終わりではなく、どちらに転ぶかわからないのだから最後までついていって判定を待つべきではないかという意味だと思います。



 常時ラインを上げていることに関してはDFの努力が大きいとは思うのですが、オフサイドに関していえば極めて際どいケースが多く、一歩どころか半歩間違えれば大ピンチになりかねない状況になっていると思います。
 現状のルールではプレスと連動して相手に苦し紛れのボールを蹴らせた状況で、オフサイドを取るというのが理想でしょう。
 ということはDFラインの頑張りだけではなく、チームとして連動した守備が出来た時に初めて成立するということではないでしょうか。


 オフサイドが取りにくいルール変更でもハイラインを続けるジェフですが、それに対する特別な対策というものは今のところ感じず、強いて言うのであればGK優也の飛び出しが対抗策となっている印象です。
 しかし、GK優也は飛び出すのが好きな選手ですが、決して敏捷性があるタイプではないと思うし、細かなプレーが得意なわけでもない。
 エスナイデル監督自身もGK優也に「ドキドキしてしまう」と言ってしまっていますが、試合を見ていても許容範囲を超えたプレーをしているような気がします。



 エスナイデル監督としてはDFがカバーの意識を高めたり背走するようになってしまっては、ラインを上げるのに支障が出るかもしれないという考えなのかもしれません。
 その分リスク覚悟で広範囲を優也にカバーしてもらい、ハイラインを維持しようということでしょうか。
 そうであるのならやはりそのリスクに伴うデメリットを上回るメリットを、ハイラインで確立することが出来るのか…ということになるのでしょう。


 現状だとハイラインを維持することが主眼に置かれている印象もあり、肝心のメリットをどこで生み出すのかが見えづらい状況となっている。
 考えうるのはやはりラインを上げる分、中盤より前を圧縮してボールを奪うことなのでしょうし、当然オフサイドを取ることではないと思います。
 ただ、肝心のプレス整備がもう1つのように見えるため、デメリットばかりが目立ち守備の不安定さが目に付く状況になっているのかなと思います。


 やはりプレスをどこまで整備し維持できるかが、一番のテーマとなっていくのでしょうか。
 しかも、これからは日本の蒸し暑い夏も待っている。
 その環境下でもリスク覚悟のハイライン・ハイプレスを継続し、最終的にチームの強みとして確立できるかどうかが、注目となっていきそうですね。