オシム監督追悼試合。
最後に3分にジェフが攻撃を作ったシーンを、振り返って見たいと思います。
この場面は、現代のパスサッカーや来季のジェフにも繋がるヒントがあるのかもしれません。
ジェフが後方左サイドでパスを繋いでいくと、ストヤノフがGK立石にバックパス。
立石は俊輔がプレスに来たのを見て、右サイド中盤で歩いていた羽生に浮き球のパスを送ります。
立石の素晴らしいパスもあって、羽生はフリーでパスを受けることに。
ここからがポイントで、羽生は素早く前のパスを繋ぐと、勇人は叩いて右サイド後方の坂本へ。
坂本も素早く楔のパスを送ると、巻がダイレクトで勇人へ戻します。
そして、勇人は前方で裏を狙っていた、水野へラストパスを送りますが、坪井がカットして水野へは届きませんでした。
図で示すと、ハーフスペースを使った攻撃にも見え、現在の5レーン理論、ポジショナルプレーにも通ずるところがあるようにも思えます。
5レーンもポジショナルプレーも昔からあったもので呼び方が違うだけとも言えるのかもしれませんが、オシム監督が未来にも繋がるサッカーをしていたという見方も出来るのかもしれません。
このシーン、シュートには繋がりませんでしたが、当時のジェフらしいパスワークだったと思います。
羽生から勇人へのパスはワンタッチ、坂本は2タッチで前方に送り、巻もダイレクトで勇人に落として、勇人もワンタッチでラストパスを供給。
少ないタッチでの素早いパスワークを好む、オシム監督らしい攻撃だったと思います。
ちょうど追悼試合当時にアップされたNumberのコラムにも以下のような俊輔のコメントがありますが、俊輔もこういったパスを叩いてでどんどん展開する攻撃がオシム監督らしいサッカーだと思っていたのではないかと思います。
実際、追悼試合でも両チーム、ワンタッチで叩く展開が多かったですし、それによって攻撃が小気味よく感じましたね。
「スイス戦を見れば分かるんだけど、ボールをパンパンはたいて、動いている。(センターバックの田中マルクス)闘莉王が前線に当てて、ヘディングで落として、俺がシュートするふりをして巻に出したり。オフサイドだったけど、すごくいい形だった。オシムさんは後半、スイスを逆転して、すごく嬉しそうだった。試合中にあんな笑顔を見たのは初めてだったかもしれない」
どんどん叩いて素早くパスを繋いでいくためには、的確なポジションにいて次のボールを受ける準備をしなければいけない。
そのためにも走ることが必要だし、次の展開のために賢くプレーしなければいけないはずです。
追悼試合3分のシーンでも、全員が動き回って、パスを繋いでいることがポイントだったと思います。
右に開いていた羽生はパスを出すとインナーラップを仕掛けているし、巻も前に走り込んで鈴木の背後を取る。
坂本もパスを出してから縦に走り込んで、勇人のラストパスの選択肢を増やそうとしています。
勇人も太田の背後に流れながらボールを捌いでいるわけですが、特にこういった動きをオシム監督は好みました。
前後左右だけでなく斜めに動くことによって、相手の背後を取る。
巻も他のシーンで左サイド前方に流れて起点になり、素早くさばいて中央へと走り込んでいました。
3人目、4人目と多くの選手が絡む、まさに「人もボールも動くサッカー」だったのではないかと思います。
ところで、オシム監督が掲げたと言われる「人もボールも動くサッカー」、あまりオシム監督本人はそんなことをいった記憶がありません。
総合するとそういったサッカーを目指していたことは事実だと思いますが、むしろトータルフットボールを目標にするという話の方が多かったようにも思います。
試合後にも話しましたが、ジェフOBと代表OBが少し違ったのは、こういったパスの距離がジェフの方が長かったこと。
それによって、展開が大きくなるし、よりスピードを感じる。
代表の方が走力よりも技術力のある選手たちが多かったため、細かく丁寧に崩したかったのかもしれませんが、当時もジェフの方がの評判が高い印象でした。
また、ジェフはサイドの中でも、ミドルエリアで選手が集まってパスを繋ぐことが多かった印象です。
それによって相手DFラインを前に引き付けて裏を狙う攻撃が多く、このシーンでも代表側はDFライン裏にスペースが出来て、そこを水野が突こうとしています。
J2などでもサイドに集まってパスワークを繋ぐ展開は多く見られますが、当時のジェフはただ局面でパスを繋ぐだけでなく相手を引き付け揺さぶろうという意識があった。
要するに、パスワークにおいて細部にも気をかけつつ、相手全体を揺さぶろうという大局も意識していた。
その一面性と俯瞰性というか、ミクロもマクロも考えたチーム作りが出来ていたところが、オシム監督の凄いところの1つだったのかもしれません。
細かいパスワークなどを意識するとそれだけのチームになりがちだし、逆に守備ボックスなどを重視すると大雑把なチームになりがちな印象がありますが、オシム監督はその両面を捉えられていたのかもしれません。
ところで、このシーンではサイドに4枚が位置取りして、パスワークを構築しています。
サイドに4枚と言えば、小林コーチが就任してからのジェフも狙っていた1つの形。
それだけに、このシーンは特に参考になるのではないでしょうか。
最近のジェフもサイドに密集する攻撃をしかけていましたが、そこで詰まってしまうことも多かった。
それを打開するには、距離感を近くし過ぎないこと、素早く回してスピードある展開を心掛けることなどが重要なのかもしれません。
また、サイドに密集する攻撃は良いとしても、選択肢はしっかりと持って、1つに固執しないことも重要なのかなとも思います。
このシーンでも、水野が前線で裏抜けを狙っていますが、坂本もサイドで縦に走り込もうとしており、いわゆるビルドアップの出口は2つも出来ていたはずです。
サイドで崩しきる意識も大事ですが、中央での狙いも持つことで、相手の守備が分散する。
オシム監督は選択肢を複数持つことを非常に大事にしていましたし、それも垣間見える攻撃だったように思います。
また、オシム監督の場合、カウンターなど他の攻撃もあった。
だからこそ、遅攻も効いた部分があったようにも思いますし、局面での選択肢だけでなく、チーム全体としての攻撃の幅も重要ですね。
来季のジェフは、そのあたりをどれだけ持つことが出来るのか。
引退試合などは個人でのドリブル突破などが目立つことが多いですが、オシム監督の追悼試合はそういったシーンがほとんどなかった。
少ないタッチでのパスワークやオフザボールでの裏への走り込みなどによる攻撃が目立った試合だったと思いますし、そこは現在サッカーにおいても参考になるのではないでしょうか。
選手が走れなかったことに関しては怒られるかもしれませんが、オシム監督の遺志を継ごうとした攻撃が多かったことに関しては「ブラボー」と褒めてもらえるのかもしれませんね。