当ブログはプロモーションを含みます

パスワークの狙いと前線の課題

 先日、『オシム語録 人を導く126の教え』という書籍がNumberから発売になりました。
 日本から離れて長い年月が経つにも関わらず今でもオシムさんの本が出ているのも凄いことですが、その中で「進歩は敗北から生まれる。5-0で完敗すれば誰だってその原因を考える」という言葉が使われているようです
 オシムさんといえばジェフ就任3試合目の神戸戦で0-3で敗れて、『唯一良かったのは全員が最悪のプレーをしたということ』と話したことも有名です。
 その翌戦から、若い選手にシフトしていきました。


 ジェフも4連敗してしまいましたが、あえて前向きに捉えるとするのなら、これによって現状に対して反省することができたのかもしれない。
 POに進出できたかどうかはともかくとして、長谷部監督が就任して何となく成績が向上して、何となく前向きな雰囲気となり、何となく翌年を迎えるよりは、ガツンとやられることによって将来に危機感を持つことができたのかもしれません。
 しかし、問題なのはそこから何を学び、何を今後に活かしていくかなのでしょうね。
 ただ単純にダメだったから次の手へ…では、今までと何も変わらずに終わってしまうように思います。
■パスをつなぐサッカーでジェフが優勢に進める
 ジェフは町田、エウトンが出場停止で、吉田、井出がスタメン。
 また、船山が控えに回って長澤がトップ下に。
 加えて佐藤優也がベンチ、菅嶋がメンバー外で山本が右SHに回り、岡本と勇人のベテランコンビがスタメンとなりました。


 先週、山口に勝利している長崎は、前節と同じ11人。
 ベンチからは佐藤洸一が外れて、田中輝希が入りました。
 GK大久保は元ジェフで、チームメイトだったGK岡本との対決になりました。



 序盤からジェフは、アグレッシブに前へ相手を潰しに行きます。
 ボールを持ってからはパスをつなぐ意識が強く、特に長崎の5-3-2の横を使ってサイドで起点を作っていく。
 そこから斜めに楔のパスをつないで、ワンタッチで叩いて繋ぐといった展開が攻撃の狙いだったと思います。


 7分、ジェフの攻撃。
 右サイドに流れた山本からのクロスは中央で合わなかったものの、吉田が拾って再び山本へ。
 山本はミドルシュートを放つも、枠を捉えきれず。


 20分にもジェフの攻撃。
 左サイド奥からのFK、山本は意表をついて中盤のアランダにつなぐも、そこはケアされ右サイドへ展開。
 右サイドからクロスを上げ、最後は岡野が足元でシュートを放ちますがバーの上。



 28分、ジェフの攻撃。
 左サイドの井出から、右サイドへ大きく展開。
 多々良が受けて吉田に楔のパス、吉田はワンタッチで落として山本へ。
 山本もワンタッチでつなぎ、走りこんできた勇人が受けてシュートを放ちますが、枠の外に終わります。


 得点にはなりませんでしたが、井出のサイドチェンジからの多々良の冷静な楔のパス。
 そこから吉田、山本のワンタッチと勇人の飛び出し…と、良い展開での攻撃でした。
 それまでの時間帯も上手くボールを回せていたものの、縦パスからのつなぎでミスが出ていましたが、この場面ではしっかりと繋げてシュートまで持ち込むことが出来ました。
 一方の長崎は得意のプレスがはまらず、防戦一方となっていました。



 37分、ジェフの決定機。
 左サイドで乾が相手2人を交わして、センタリング。
 勇人が頭で合わせてシュートを放ちますが、相手DFにあたってゴールならず。
 しかし、乾の独特なステップでのドリブル突破は見事でした。


 40分、長崎の攻撃。
 左サイドのパクから、前線を走らせるロングボール。
 岡野が先に落下点に入りますが、木村に入れ替わられると、何とか岡野がクリア。


 ここまで岡野は積極的に前に出て相手を潰せていましたが、ここは少し危ないシーンでした。
 そこからの時間は長崎がボールを持ちますが、大きなチャンスは作らせず。
 そのまま0-0で後半に進みます。
■後半から失速し0-0の引き分け
 46分、長崎のチャンス。
 田中から右サイドの趙とつないで、斜め前方のパス。
 中央でスルーをして、最後は木村が受けてシュートを放つもGK岡本がセーブ。


 48分、ジェフはアクシデント。
 山本が負傷交代して、船山が出場。
 船山はそのまま右SHに入りました。



 55分、ジェフのチャンス。
 CKの後にアランダが中盤で拾って相手をかわし、前方へ浮き球のパス。
 長澤が飛び込み相手GKも交わして中央に折り返しますが、最後は相手DFがブロック。


 61分、長崎の選手交代。
 梶川に代わって、宮本を投入。
 66分には、ジェフが吉田に代えてオナイウを投入します。
 


 後半序盤も若干ジェフが優勢かといった印象でしたが、徐々にジェフの運動量が落ち長崎がボールを持つ時間が増えていきます。
 71分、長崎の攻撃。
 田中のクロスから前田が頭で合わせますが、GK岡本が対応。


 77分、ジェフは井出に代えて北爪を投入し、船山が左SHに回り右SHに北爪が入りました。
 その直後、長崎の決定機。
 後方からのロングパスを乾が跳ね返せず、白が抜け出す形となってシュートを放ちますが、バー直撃で終わります。
 


 その後はさらにジェフの運動量が落ち、ミスも増えていきます。
 しかし、長崎も攻守に勢いを上げられず。
 お互いに決め手を欠く展開が続きます。


 それでも、90分にはジェフのチャンス。
 中盤でボールを奪って、船山が前方へ素早く浮き球のパス。
 オナイウが抜け出してGK大久保と一対一になりますが、GK大久保が足元でシュートをブロック。


 92分にもジェフの攻撃。
 右サイドからのCKを船山が蹴ると、近藤の足元にボールがこぼれてシュートを放ちますが、相手DFにあたってゴールならず。
 最後は攻めの姿勢も見せたジェフですが、この試合でもゴールは生まれず0-0で引き分けとなりました。
■パスワークの意図と得点が奪えなかった要因
 前半は悪くない流れで戦えていたと思います。
 相手の中盤が三枚なので、その外でボールをつないで斜め方向に楔のパスを出す。
 それをFWがワンタッチで落として中盤が拾って前に飛び出すという展開が、この日の狙いだったのではないかと思います。


 先週の試合後にも話したように、ジェフは9月後半から裏抜けを相手に警戒されるようになった。
 そこで10月途中からパスをつなぐ意識が高まっていき、ついに長崎戦では船山を控えに。
 そして、よりパスをつなげる長澤を、前線で起用したのではないでしょうか。



 また、この試合ではエウトンの出場停止もあって、吉田がスタメン起用された。
 まだロングボールの長かった10月2日の群馬戦ではスタメン起用されかなり苦労していましたが、この試合ではある程度ボールに絡めるようになった。
 しかし、試合序盤から幾度となく吉田がポストプレーで繋ぎ切れず、そこで攻撃が終わってしまうことが多かったと思います。


 また、トップ下の長澤も前節同様に中盤での仕事には絡めても、ゴール前に飛び込むようなシーンは極めて少なかった。
 トップ下がパスをつなげても最後は飛び込めるようにならないと、ゴール前が薄くなってしまう。
 チームとしてある程度パスは繋げていたものの、得点を上げられなかったのは2トップそれぞれの課題も大きかったように思います。



 ただ、吉田はファーストディフェンスに貢献していたため序盤は全体としてプレスにいけていたし、長澤も要所要所では中盤での繋ぎに絡めていた。
 エウトンでは守備に不安があるし、船山だと前に急ぎすぎて、ここまでパスは繋げなかったかもしれない。
 オナイウも自分からは相手を追いきれないところがあり、前線の誰もが一長一短と感じてしまうところがありますね。


 これで吉田がもう少し球際で強さを発揮できれば…と考えていくと、やはり守備もできて体も強く前へも動ける全盛期の巻は偉大だったのだなと思ってしまいます(笑)
 もちろん吉田もまだ若い選手ですから、今後に期待したいところではあります。
 しかし、現時点では相手を背負ってのプレーで潰されたり、ゴール前の高さで物足りなさを感じる部分がある印象です。
 特に近年のサッカーはより前線に守備力が求められている印象ですから、巻のような選手の重要性とともに吉田の成長への期待も高まる状況ではないでしょうか。



 山本の右SH起用も他に選手がいなかった可能性もありますが、サイドからのパス出しを期待されていたのかもしれません。
 結果的に長澤、山本と数少ないパサータイプが同時起用され、よりパスワークを意識するサッカーとなった。
 また、勇人の起用は縦に繋いだ後の落としを拾う選手を、増やしたかった可能性もあるのではないでしょうか。
 前節のボランチ山本も、かなり前への意識は高かったですしね。


 サイドから楔のパスを入れ、ボランチなどが前に飛び出し、ワンタッチでそこに落とす。
 山本のサイド起用、勇人のボランチ起用、船山ではなく長澤の起用などメンバー交代もあって、よりその展開が意図としてはっきりとできていた前半だったと思います。
 楔のパスに対して中盤の選手のサポートも素早く、近い距離で行うことができていたため、そこが通りさえすればチャンスになりそうな場面が作れていた。


 それが前半スムーズに戦えた要因の1つですが、ポストプレーも含めてゴール前での質がもう1つだったため、ゴールまでは奪えなかったということでしょう。
 もしかしたら、これが本来は長谷部監督のやりたいサッカーに近いスタイルなのかもしれません。
 ただ、パスサッカーは時間がかかる分、シーズン途中の就任からでは難しいと考えていた可能性もあるのではないでしょうか。



 守備においても、吉田、勇人、岡野などが前に潰しに行けたことによって、前半は攻撃の機会をほとんど作らせなかった。
 乾も攻守に貢献し、岡野、乾の活躍も目立っていましたね。
 前節の経験も経て、緊張することなく良いプレーができるようになったのではないでしょうか。


 相手の出来の悪さもあったとは思いますが、新人2人も活躍し攻守に良い展開も見せられて、収穫もあった試合だと思います。
 ただ、その収穫をものにして手応えに変えるためにも、点を取りたかったし勝ちたい試合でもありました。 
 この流れを続けて、次こそは良い結果を残したいところですね。