前編に続いて。
迎えた2010年、南アフリカW杯。
「岡田監督はW杯直前にギャンブルに出てチームを大きく変えた」、「これまでの2年半は全くの無駄だった」というような言われ方もされることがあるようですが、私はそこまでとは思いません。
確かにそれまでの大きな特徴でもあった、前線からのプレスはあまり見られなくなしました。
しかし、W杯開幕前に09年のオランダ戦を改めて見たのですが、印象ほど高い位置からプレスをかける回数は多くなかったのです。
高い位置でボールを失った直後こそこにプレスをかけていたけれど(これはW杯本番ではほとんど見られなくなりましたが)その回数は少なく、奪えなければすぐリトリートして相手の攻撃を待って網を張る守備をしていました。
そして、そのリトリートした位置から縦にボールが入ると選手がチェックにいく、あるいはFWあたりがセンターサークルの後ろまでプレスバックしていく守備が効果的に出来ていました。
ようするに、その頃から既に世界レベルの相手にはそれほど高い位置からのプレスを考えていなかったのかもしれませんし、リトリートする形のベースは昨年のオランダ戦から少しずつ出来ていたのではないかと思います。
もちろん本来の理想は高い位置からのプレスでしょうし、それを作りきれなかったことは残念なことですが、W杯直前まで全く準備をしていなかったか?というとそうではないように思います。
攻撃に関しても、09年のオランダ戦で中央から細かくパスをつないでサイドの裏を狙うサッカーをしていましたし、やろうとしていることは大きく変わっていなかったと思います。
その中でイメージが大きく変わってしまったのは、俊輔の不調によるベンチ降格と本田の起用が大きかったのではないでしょうか。
ボールを多く触りたがり中盤で流動的に動く俊輔を起用するとチーム全体のリズムに大きな影響を与え、そのチームのイメージ自体も変えてしまう場合がある…。
これはオシム監督の頃からも見られた傾向です。
その俊輔が不調に陥って、同じく一発のある本田を起用することになったと。
このタイミングで本田が“間に合った”のは、岡田監督にとっては幸運だったんじゃないかと思います。
もし俊輔に何かあった場合を考え、代役を試しておくべきだという意見は多くありましたしね。
ただ、実際問題として俊輔の代わりになるような選手がいなかった…という問題もあるのかなと思うのですが。
本田のW杯での成功も、ここにきての本人の成長が大きかったのではないかと思いますし。
最終的に「本田システム」が短期間で構築できたことに関しては、素直に岡田監督の修正力と選手達の対応力を讃えるべきではないでしょうか。
考えてみれば岡田監督はじっくり時間をかけてチームを作るよりも、相手の分析をして短期的に自分達の良さを出すことの方が得意な監督なのかもしれませんね。
代表チームの監督としてはそちらの方があっているのかもしれませんが。
今思えばW杯で戦うベースとなったようにも見える09年のオランダ戦ですが、それ以降あまり良いサッカーが出来ていなかったのは、対戦相手の実力差も大きかったのかなと思います。
アジア杯最終予選や東アジア選手権など、格下に近いチームとの試合が増えていってしまいました。
しかし、例えばW杯で見せたようなカウンターサッカーでは、そういったチームとの相性は悪い。
そのあたりに大きなジレンマがあったのではないでしょうか(そうは言っても日韓戦などは、簡単に負けてはいけない試合でしたが)。
W杯では守備的なサッカーをして成功を遂げた日本代表ですが、アジアレベルでは逆に追われる立場になってしまうということですね。
それに加えて過密日程の問題や、海外組み選手達との兼ね合いもある。
このあたりに関してはオシム監督も苦労した部分だったのかもしれませんし、今後の日本代表も悩まされる問題なのかもしれません。
協会も出来る限りサポートしてやりやすい状況を作る努力をしなければいけませんね。
紆余曲折あった日本代表の4年間ですが、私はW杯の本番で“日本人による日本代表のサッカー”の1つの指標を示してくれたと思っています。
もちろん攻撃的なサッカーではなかったですが、それ以上に重要なのは“日本人らしいサッカー”をして、世界とどれだけ戦えるのかチャレンジすることだと思っていました。
それによってまだまだ足りない部分も、日本人でも通用する部分も見えてきたのではないでしょうか。
例えば、足りない部分として、中盤で激しいプレスが掛かった時や猛攻を受けた時の対応。
パラグアイ戦では相手のプレスによって押し込まれてしまいましたし、カメルーン戦の後半もラインが下がってしまう時間が増えていました。
やはり相手のプレッシャーが来た時の技術、あるいは判断スピードなどが重要になってくるのでしょうか。
このあたりは、育成のレベルで頑張っていかなければいけないことではないかと思うのですが。
加えて中盤のパスワークでもっと相手を広く揺さぶることできればプレスもかいくぐることが出来たでしょうし、攻撃でももっと優位になれたのではないかと思います。
また、守備に関しては、粘り強い対応はできていたと思うのですが、そこからのボール奪取能力に関してはもう少しだったのかなと。
それと攻撃のラストの部分。
良く言われてきた「決定力」に関しては、本田の活躍もあってむしろ日本代表の強みにすら感じてしまいました(笑)
決定力に関しては海外のチームの方が酷かったと思いますし、やっぱり日本人だけの問題ではないですよね。
同じことは審判の質にも言えるんじゃないかと思うのですが。
けれども、ラストパスの精度やアイディア、そしてそこまでのパスワークに関しては、もう少しレベルを上げていきたいところではないかと思います。
課題も見られましたが、総じて見ると日本人選手の良さも目立った大会だったと思います。
大久保や松井のスピードあるドリブルが通用したのは代表に選ばれなかった選手達にも励みになったでしょうし、遠藤や本田のセットプレーの質も目立っていました。
長谷部、大久保、松井などがボールを奪った後に、切り替え早く前に飛び出していけるプレーも可能性を感じた部分です。
守備では粘り強く対応でき、中澤、闘莉王の高さが世界レベルでも通用したことは、今大会での一番の驚きだったかもしれません。
ラインのコントロールも素晴らしく、他チームの最終ラインが凸凹なのを見ると、日本代表のラインがすごく綺麗に感じました。
今回の日本代表は、それらの良さを出せたチームだったのではないかと思います。
それが“日本人らしいサッカー”で戦えたと評価する理由です。
次期日本代表監督を考えるとすれば、これらの日本人の良さを理解し、活かせる監督が良いのではないでしょうか。
もちろんこのサッカーを完全にコピーする必要などまったくないけれど、日本人の良さを活かせるサッカーと全く違うサッカーにだけはしてほしくないですね。
そういう意味で、大枠での“継続性”を期待したいところではないでしょうか。
それと出来ることならば、日本代表が次のステージに立つためにも攻撃面を強化できる監督が良いのではないかと。
岡田監督は運動量や切り替えの速さや勤勉さなどを守備面で発揮してくれましたが、これを攻撃面で活かせるようなサッカーを作ってほしい。
ポイントは、より中盤でのパスワークで優位に立つことではないかと思います。
それとアジリティと運動量を駆使して中盤からの飛び出しをもっと活かした攻撃の精度を、もっと作っていきたいところではないでしょうか。
といっても、選手も入れ替わるでしょうし今の守備を残せるかどうかはわかりませんから、現時点でこの守備をベースにここから攻撃を積み上げていって欲しいというのは現実的ではないのかもしれませんが。
ともかく“日本人らしいサッカー”を実行し、それによって収穫も課題も見つかったということ。
しかも、ベスト16という結果まで出してしまったのだから、今回のW杯における日本代表は大成功と言っていいでしょう。
けれども、だからこそ、これからが難しいのかなとも思うのです。
ここからどういった強化を目指しどういったチームを作れば、今回の成功を超えられるのか。
日本サッカーはこれから大変な難問に挑まなければいけないわけですね。
日本代表だけでなくJリーグなど国内のサッカーも含めて、より一層頑張っていかなければいけないのではないかと思います。