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矢田「右サイドへの展開を意識しながら左サイドで作る」

 福岡戦前から気になっていた話題なので、矢田が話してくれてよかったです。
 ジェフ公式サイトの福岡戦プレビューでも「サイドで数的優位を作るスタイルを示した」と書かれており、先週のエルゴラでもほぼ同じ内容が掲載されていました。
 記者が同じなのかもしれませんが、個人的には少し意外な印象を受けました。

 というのも、サイドに人数をかける展開というのは、これまでにも見られた動きだったはずです。
 個人的な認識で言えば、江尻監督就任当初はそういった傾向は見られず。
 4月21日の横浜FC戦から為田が左WBとしてスタメン起用されると、その数試合後から船山や熊谷などが左サイドに寄る動きをするようになっていった印象です。


 そのため、江尻監督が初めから意図的にやりたかった展開というよりは、為田を使うことで個人技での打開がメインになって、そこにサポートを増やすことになったのではないかと思います。
 そうなったのも江尻監督就任当初には見られたポストプレーからの展開もなくなり迷走状態に陥っていたため、為田の個人技に頼らざるを得なくなっていった。
 為田の個人技しか打開策がなかったために、他の選手がそこにサポートへ行ってそこを強化する形になったのではないかと考えていました。

 経緯はともかく、左サイドに選手が集まる動きは今までも実施していただけに今更な印象も受けますし、それをやってもうまくいっていなかったから攻撃が停滞していたともいえると思います。
 しかし、少なくともここ2試合はある程度の効果を出せているように見えるのは、相手の守備に問題があることも大きいのではないでしょうか。
 あるいは、ジェフ側の変化を考えるとすれば、4バックに変更したことによって熊谷や船山や乾だけでなく、下平や堀米も為田へサポートに行けることになったことが挙げられるのかもしれません。


 例えば福岡戦2分の場面。

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 左サイドで熊谷、下平、為田とつないで、為田がクロスまで持っていきました。
 クロスを上げた為田には相手選手がついていましたし、チャンスとまではいっていません。
 しかし、左サイドで人数をかけて、クロスという展開が作れた場面ではありました。


 この場面を振り返ると、白円で表示したようにジェフの中盤左サイドには下平、船山、熊谷に加えて、逆サイドの堀米も流れてきています。
 それに対して福岡の中盤右サイドには松田、喜田、田邉の3人しかいないということで、ジェフは中盤で数的優位を作れています。
 福岡は右サイドへのスライドに躊躇がなかったですし、ジェフの動きは予想はしていたのですが、それでも人数が足りていません。

 人数が足りていないので、黒い点線で示したように右シャドーの松田が熊谷と下平のどちらに行くのか迷って、中途半端な状況になってしまいました。
 さらに後方でも右CBウォン・ドゥジェが船山に対して前に出ていくべきか、後方の為田を見ているべきか迷っていました。
 そのため若干前にポジショニングをした結果、DFラインが凸凹になり為田が裏へ飛び出せる展開となりました。


 しかし、黒円で示したように為田には右WB實藤もついていたし、ゴール前ではクレーベに対して菊地と篠原の2人が対応していた。
 ようするに、福岡のDFラインは人数が余っていて、かなりの余裕があったはずです。
 そのため、實藤かウォン・ドゥジェが前に出て、中盤の数的不利を解消することは、理論上可能だったはずです。

 ようするに、ジェフがうまくやった展開とも言えなくはないでしょうが、福岡がうまく対応できてさえいればジェフの数的優位は生まれず、フリーな選手も作れなかった。
 これは先週話したように、堀米が逆サイドに流れると簡単にフリーにしていた岐阜の守備にも近いものを感じます。
 久藤監督もこのように話しています。

千葉の左サイド、福岡の右サイドを崩された印象はあるが。
久藤清一監督「後ろで人が余っていた部分はあった。「押し出すように」とは伝えていたが、どうしても相手が入れ替わったり、出てきたりして思い切ったプレーができていなかった。」

 この「押し出すように」というのが、まさに上記の展開で足りていなかった部分ではないでしょうか。

 福岡は守備で後方に人数が余ってしまう問題が見られたこともあって、4バックに変更して前の人数を増やした部分もあったのかなと思います。
 ただ、実際には4バックに変更しても大きくは改善されず、逆にミスマッチがなくなってジェフが守りやすい状況になっていった印象でした。
 ジェフの3点目などは福岡がビハインドだったこともあって前掛かりになり、その裏を取られたパターンと言えるのではないでしょうか。


 一方で、矢田はこの展開に関して、「選手の特長を発揮しようというスタイル」と話しています
 しかし、ここに関しては、少し気になる部分もある気がします。
 以前、私はこのようなことを書いていました

例えばオシム監督は水野や村井といった攻撃的WBを活かすために、逆サイドには守備が出来てパスを繋げてゴール前に飛び込める山岸や坂本を置いていました。
山岸のサイドには味方選手を密集させてパスを繋ぐことで、相手選手を引き寄せておいて、そこから大きく逆サイドの水野に展開する。
(中略)
熊谷や船山が為田の近くに寄る動きも増えていますが、為田は周囲の選手を活かせるタイプではないため、味方選手も置き去りにすることが多い印象です。 

 先ほども述べた通り、そもそも現在の左サイドに選手が寄る形は、為田の個人技しか期待できないチーム状況だったから、そこに人数をかけて戦うしかなかったのではないかという印象があります。

 しかし、為田はむしろオープンスペースで活きる存在であり、周囲との連携で崩す展開はあまり得意ではないと思います。
 実際、図で示した2分の展開でも、為田がタッチライン際で相手に寄せられたため、相手を抜けきれずクロスの精度も欠いてしまいました。
 味方選手が寄るということは相手選手も寄ることになるわけで、船山や下平はともかく為田や堀米などは、密集の中で活きる選手なのかという疑問があります。


 一方で右サイドのゲリアに関しても、確かに脚力やフィジカルはあって、それを大きな展開で活かすという見方もできるかもしれません。
 実際に岐阜戦では惜しいクロスもあり、福岡戦でも1度はシュートまで持っていきました。
 しかし、基本的には1対1の仕掛けで、持ち味を出せるタイプではないでしょう。

 では、どうすればゲリアを活かせるのかと考えると悩ましいところもありますが、実際の試合ではゲリアのところへ展開してもボールを失って、カウンターを作られることがかなり多かったと思います。
 むしろ本来はその位置にこそ、為田などが欲しいのでは…と思うこともありました。
 ゲリアが1対1で怖さを発揮できなければ、相手はゲリアを警戒せず躊躇なく逆サイドにスライドできてしまいますし、そうなれば左サイドの密集攻撃も封じられてしまう可能性があるかもしれません。


 先ほどの引用ではオシム監督時代の村井・水野、坂本・山岸などを紹介しましたが、鈴木監督時代にも打開力があって鋭いクロスを上げられる米倉にはあえて味方選手を寄せずにオープンな展開を作る。
 一方でスピードなどはなく個人技では打開できないけれど、クロスの精度が高く密集から飛び出す動きはできる中村に対しては、味方選手を密集させてサポートするという形を作っていたはずです。
 ただストロングポイントに選手を密集させるのではなく、選手の良さも見極めてチームとしての強みを作っていくことが理想ではないでしょうか。

 とはいえ、現実問題として、理想通りの選手がいるとは限らないのも事実なのでしょう。
 しかし、その中でもチームの強みを作り弱みを隠せるかが、監督の力量を問われるところでもあると思います。
 最終的に1つの武器と呼べるような展開を、何とか見出してほしいところではないでしょうか。